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·経営者の論点

社長の声で振込を急かす AI 音声詐欺。IPA と警察庁が注意喚起、従業員 20 名の会社が「今すぐ動く」理由

判定今すぐ動くAI 音声・ディープフェイクによるなりすまし詐欺
次の一手
対策の中心は「電話やメールだけでは振り込まない」という社内ルールであり、費用ゼロで今日の午後に決められるため
当てはまる会社
社長や役員の指示で経理担当者がネットバンキングから振り込める会社。とくに社長が出張や外出で不在になりやすい会社

何が起きているか

結論から言います。社長や取引先の「声」や「顔」を AI で偽り、経理担当者に振込を急がせる詐欺は、国内の公的機関が注意喚起を出す段階に入っています。対策の中心は道具ではなく社内ルールです。費用はかからないので、判定は「今すぐ動く」です。

確認できた事実は次の 3 点です。

  1. IPA(情報処理推進機構)の「情報セキュリティ 10 大脅威 2026」組織編で、ビジネスメール詐欺(経営者や取引先になりすまして送金させる詐欺)が 10 位に入っています。2026 年 3 月の解説書には、弁護士などを装う手口に「時に生成 AI 等による偽電話もある」こと、「なりすましに AI によるディープフェイク等の利用も確認されている」ことが明記されています。あわせて「緊急」「他の従業員には秘密」と添える手口や、LINE グループの作成を命じるメールも挙げられています。(出典: https://www.ipa.go.jp/security/10threats/10threats2026.html 、解説書 p.40 https://www.ipa.go.jp/security/10threats/omgdg50000008fi8-att/kaisetsu_2026_soshiki.pdf )
  2. 警察庁は 2026 年 2 月 13 日に「法人を対象とした詐欺(ニセ社長詐欺)」の注意喚起を出しました。経営者になりすましたメールで SNS グループを作らせ、振込権限を持つ担当者を入れさせたうえで、口座残高を答えさせ「事業資金が至急必要」と送金させる流れです。警視庁も 2026 年 1 月 13 日に「社長・上司を装ったメールが急増中」と注意を呼びかけています。NHK は 2026 年 7 月 10 日の解説記事で、この手口に「生成 AI が悪用されている可能性」があると伝えています。(出典: https://www.npa.go.jp/bureau/safetylife/sos47/new-topics/260213/01.html 、 https://action.digipolice.keishicho.metro.tokyo.lg.jp/view/notice/301 、 https://news.web.nhk/newsweb/na/na-k10015173491000 )
  3. 国内企業で、社長の声そっくりの電話による送金指示が実際に起きています。セキュリティ会社 Proofpoint の日本法人が 2025 年 5 月に公表した事例では、海外にいる幹部に社長名の発信者表示で電話があり、「M&A 案件のため指定口座に本日中に送金」「極秘なので誰にも話さない」と指示されました。電話は 3 回あり、幹部が弁護士に直接電話して確認したため被害はありませんでした。公表資料では、録音された声が株主総会やインタビュー動画の社長の声と一致したとされています。被害額や企業名は公表されていません。(出典: https://www.proofpoint.com/jp/email-and-cloud-threats/voice-phishing-with-AI-learning-ceos )

参考として、警察庁の「令和 7 年におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」(2026 年 3 月公表)は、銀行員を装った電話で法人口座のネットバンキングに誘導するボイスフィッシングの被害が 2025 年 11 月に再び急増し、「被害法人 1 社で 4 億円を超える被害」もあったと記しています。共同通信は 2026 年 7 月、警察庁の集計として 2025 年の同被害が 143 件、約 44 億 8 千万円だったと報じました。これは AI 音声の事例ではなく「電話で会社の経理を動かす詐欺」の規模を示す数字です。(出典: https://www.npa.go.jp/publications/statistics/cybersecurity/data/R7/R07_cyber_jousei.pdf 、 https://kumanichi.com/articles/2010663 )

海外では 2024 年 2 月、香港警察がビデオ会議の参加者全員が偽物だった事例を公表しました。財務担当者が 15 回に分けて 2 億香港ドルを送金しています。(出典: https://hongkongfp.com/2024/02/05/multinational-loses-hk200-million-to-deepfake-video-conference-scam-hong-kong-police-say/ )

うちで起きたらどうなるか

従業員 20 名、社長が週の半分は外回りという会社を想像してください。

午後 2 時、経理担当者の携帯に社長の番号から着信があります。声は社長そのものです。「今、先方の社長と一緒にいる。新しい取引の手付金を今日中に振り込んでほしい。口座はこのあとメールする。まだ社内には言うな」。10 分後、見慣れた社名のメールが届き、振込先口座が書いてあります。経理担当者はネットバンキングにログインします。承認者は社長一人ですが、社長の承認用の暗証番号は「急ぎのとき用」に経理担当者も知っています。

弱点は 3 つです。声と携帯番号だけで本人確認が終わること、経理担当者が一人で送金を完了できること、「社内に言うな」を疑うルールがないことです。国内事例で被害を防いだのは、指示を受けた人が「別の相手に、自分から電話をかけた」ことでした。見抜く力ではなく、手順が守ったのです。

次の一手

  • 今週やること: 「振込は電話・メール・チャットだけでは受け付けない。必ず登録済みの番号に自分からかけ直す」を社長名で全員に通知する。IPA の解説書も「絶対、電話・メール単体では受け付けない」と書いています。社長自身が「自分からの急ぎの電話でも、折り返しを待て」と宣言するのが一番効きます。
  • 今月やること: ネットバンキングを「依頼者と承認者を別の人にする」設定に変え、1 回あたりと 1 日あたりの振込限度額を実務に合わせて下げる。あわせて、社長と経理だけが知る合言葉を 1 つ決める。急ぎの指示では合言葉を聞き、答えられなければ送金しない。
  • 業者に頼むならどこまで: 社内ルール、合言葉、承認者分離、限度額は自分たちで決められます。業者に頼む価値があるのは、自社ドメインをかたるメールを止める設定(送信ドメイン認証)と、年 1 回の模擬訓練です。「AI 音声を見破るソフト」から入る必要はありません。

使える AI・ツール

ツールより先に、いま契約している銀行の設定を使い切ってください。

AI 音声の検知ツールは、上の運用より後でよいと判断します。運用が決まっていない会社では、検知ツールがあっても「社長の指示だから」で送金が通ります。

明日やること

経理担当者に、社長本人の携帯から電話をかけてください。「急ぎで 50 万円を振り込んでほしい」とだけ伝え、担当者が折り返し確認をするか、誰かに相談するかを見ます。かけ直しがなければ、その場で「今後は必ずかけ直す」と決めて終わりです。10 分で、自社の今の弱点が分かります。

出典

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