AI推進担当者の役割とは|兼任で任された人の90日やることリスト
AI推進担当者の役割を、IT担当のいない中小企業向けに整理します。兼任で任された人が最初の90日でやることを月ごとのリストにし、潰れないために社長が渡すべき時間・権限・後ろ盾、よくある失敗と回避策まで、今日から動ける形でまとめました。
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「社員の誰かにAI推進を任せたい」「自分がAI推進担当に指名されたが、何をすればいいのか分からない」。そんなご相談が増えています。結論から申し上げると、中小企業のAI推進担当者の役割は、技術を極めることではありません。「使う業務を1つに絞って旗を振る」「現場の詰まりをその場で潰す」「ルールと成果を見える化する」の3つに集約されます。そして多くの場合、担当は専任ではなく兼任です。ここを前提に設計しないと、担当者は通常業務に押しつぶされて動けなくなります。この記事では、兼任で任された人が最初の90日でやることを月ごとのリストにし、担当者を潰さないために社長が渡すべきものまで、今日から動ける形でまとめました。なお、ここで言う生成AIとは、ChatGPTのように文章の下書きや要約をつくってくれるAIを指します。
AI推進担当を任されたら、まず押さえる3つのこと

最初に、いちばん大事な話をします。任された直後に押さえておくべきことは、次の3つです。ここを取り違えると、どれだけ頑張っても空回りします。
- ゴールは「全社でAIを使いこなす」ではなく「まず1つの業務が楽になる」こと。いきなり全社変革を目指すと、何も進みません。小さな成功を1つ作り、横に広げるのが最短です。
- 自分が一番詳しくなる必要はない。担当者の仕事は、自分が技術者になることではなく、現場が使える環境と空気をつくることです。難しい仕組みの理解は後回しで構いません。
- 1人で抱えない。推進担当がつまずく最大の原因は「孤立」です。社長の後ろ盾と、現場の協力者を最初に確保します。
背景には、追い風もあります。総務省の『令和8年版 情報通信白書』によると、生成AIを「積極的に活用する」または「領域を限定して活用する」方針を持つ日本企業は**68.9%まで増え、中小企業でも58.1%に達しました(前年度の全体49.7%から大きく上昇)(総務省 情報通信白書)。つまり「方針を決める」段階を越え、「誰が旗を振って実際に使わせるか」**が次の課題になっています。その旗振り役が、AI推進担当者です。
AI推進担当者の「役割」とは何か(5〜50名の現実版)

大企業向けの解説では、推進担当の役割が5つも6つも並びます。しかし従業員5〜50名でIT担当もいない会社では、全部は背負えません。現実的に絞ると、役割は次の3つです。
| 役割 | やること | 狙い |
|---|---|---|
| ①旗を振る | 使う業務を1つ決め、全社に方針を伝える | 「何に使うか」を迷わせない |
| ②伴走する | 現場の詰まりをその場で一緒に潰す | 「使えない」で止めさせない |
| ③見える化する | ルールと成果を文書にして共有する | 安心して使え、続く状態にする |
①旗を振るとは、「うちはまず議事録の要約からAIを使う」というように、最初に取り組む業務を1つ決めて社内に宣言することです。あれもこれもと広げず、1業務に絞るのが要点です。対象業務の選び方は、業務を分解してAI向きかを判定するAI業務の棚卸しのやり方が役立ちます。
②伴走するとは、現場で「使い方が分からない」と止まっている人の横について、一緒に1回やってみせることです。推進担当の仕事時間の多くは、実はこの地道な伴走に費やされます。号令より、隣で手を動かすほうが人は動きます。
③見える化するとは、「何を入れていいか・いけないか」のルールと、「今月どれだけ時間が浮いたか」の成果を、紙やチャットで共有することです。ルールの骨子は社内の生成AIガイドラインの作り方にまとめています。
なお、AI推進担当とDX推進担当・情シス(情報システム担当)は、似て見えても役割が違います。DXやシステム管理は仕組みやツールの導入が中心ですが、AI推進担当の仕事は「人が日々の業務で実際に使うようにする」ことです。パソコンやネットワークに詳しい必要はありません。むしろ現場の業務をよく知っている人が向いています。技術の細かい部分は、必要に応じて外部に頼れば十分です。
最初の90日でやることリスト

ここが、この記事の核心です。兼任の担当者が、通常業務をこなしながら無理なく回せる90日の進め方を、月ごとに示します。欲張らず、この順番で1つずつ進めてください。
1か月目:自分で使う・味方を見つける
- 担当者自身が、毎日1回は生成AIを業務で使ってみる。返信の下書き、長文の要約など、まず自分の仕事で体感します。
- 社内で前向きな協力者を1〜2人見つける。全員ではなく、面白がってくれる人から始めます。
- 禁止事項(顧客名簿・個人情報・未公開の機密は無料AIに入れない)を社長と確認し、1枚にまとめる。
- 入門教材として、総務省の生成AIはじめの一歩を読み、説明の下敷きにします。
2か月目:1業務に絞って小さく試す
- 「最初に楽にする業務」を1つ決め、協力者と2週間試す。例:議事録の要約、見積メールの下書き。
- 詰まった点と、浮いた時間をメモに残す。これが後の説得材料になります。
- うまくいった手順を、短い「使い方メモ」1枚にして共有する。指示の出し方はビジネスでのプロンプトの書き方が参考になります。
たとえば議事録の要約なら、「これまで会議後に30分かけて書いていたものが、録音の文字起こしを貼り付けて5分で下書きができた」という形で、作業時間の前と後を並べて記録します。この「前と後」こそが、3か月目に経営層や現場を動かす材料になります。数字が出せなくても、「この作業が明らかに楽になった」という具体例があれば十分です。
3か月目:成果を見せて横に広げる
- 2か月目の成果(浮いた時間・具体例)を、朝礼か定例会議で5分で報告する。
- 同じ業務を、協力者以外の2〜3人にも広げる。1人の成功を横展開する段階です。
- 週1回・5分の「AI共有タイム」を定例に組み込み、続く仕組みにする。
- ここまでの経験をもとに、3か月・6か月・1年の計画に引き上げます。全体設計は生成AI導入のロードマップをご覧ください。
90日の終わりに「1つの業務が確実に楽になり、使える人が数人増えた」状態になっていれば、十分な成功です。派手な全社導入より、この小さな実績のほうが、その後を大きく左右します。
兼任で潰れないために|社長が担当者に渡す3つのもの

ここは、担当者を任命する社長に向けた話です。推進担当がつまずく原因の多くは、本人の能力ではなく、任せ方にあります。兼任で任せるなら、社長は次の3つを必ず渡してください。渡さないまま「あとは任せた」とするのが、いちばんの失敗です。
- 時間:通常業務の一部を明確に外し、推進に使える時間を確保する。「空いた時間でやって」は、実質「やるな」と同じです。たとえば週に半日を推進の時間と決めます。
- 権限:他部門に「この業務でAIを試してほしい」と依頼できる立場を、社長が公に与える。権限のない担当者は、誰も動かせず孤立します。
- 後ろ盾:朝礼や会議で社長自身が「この取り組みは会社として進める」と繰り返し言う。失敗を責めない姿勢を示すことが、担当者と現場の両方を安心させます。
特に大切なのが、社長自身も使ってみせることです。経営者が返信の下書きや資料の要約にAIを使う姿を見せると、「やらされ仕事」が「会社の本気」に変わります。経営者が押さえておく知識は経営者が知っておくべきAIリテラシーに整理しています。
よくある失敗と、その回避策

最後に、推進担当でよく起きる失敗を4つと、その回避策をまとめます。先に知っておけば、ほとんどは避けられます。
- 失敗1:兼任で時間が取れず、何も進まない。回避策は、前章のとおり社長が時間を公式に確保すること。担当者側からも「週半日ください」と具体的に求めてよい項目です。
- 失敗2:権限がなく、他部門を動かせない。回避策は、社長から全社への一言。担当者個人のお願いにせず、会社の取り組みとして位置づけます。
- 失敗3:情シスや詳しい人に丸投げされる。回避策は、推進担当は「技術者」ではなく「業務を変える旗振り役」と定義し直すこと。技術の細部は外部に頼ってよい部分です。
- 失敗4:成果が見えず、関心が薄れる。回避策は、浮いた時間や具体例を毎月5分で報告すること。数字と事例がないと、経営層の関心も現場の熱も続きません。
もう1つ、見落とされがちな失敗があります。最初から完璧な体制や立派な計画を作ろうとして、動き出しが遅れることです。推進担当に任命されると「まず全社の方針を固めなければ」と考えがちですが、順番が逆です。1つの業務で小さく成功させ、その実例をもとに計画を育てるほうが、結果的に早く確実に進みます。立派な計画書より、1つの「楽になった」を先に作ってください。
これらに共通する根っこは「担当者を1人にしない」ことです。社員が使ってくれない・定着しないという悩みの構造と対策は、生成AIが社内で定着しない原因でくわしく解説しています。体系立てて教育まで進めたい段階になったら、社内の生成AI研修の進め方も役立ちます。
まとめ
中小企業のAI推進担当者の役割は、「旗を振る・伴走する・見える化する」の3つに絞れます。専任ではなく兼任が前提だからこそ、最初の90日は欲張らず、自分で使う→1業務に絞って試す→成果を見せて広げるの順で1つずつ進めてください。そして担当者を潰さないために、社長は時間・権限・後ろ盾の3つを必ず渡すことが欠かせません。
明日やること: 社長なら、推進担当に「週に半日を推進の時間に使ってよい」と口頭でいいので正式に伝えてください。担当者なら、まず今日の自分の業務で生成AIを1回使い、浮いた時間をメモに残してください。どちらも午後の数分で始められる、最初の一歩です。
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