AI Navigator ロゴAI Navigator
· コラムブログ重要度 中(63)

AI内製化の進め方|中小企業がどこまで自社でやるか見極める判断軸

AIの内製化をどこまで自社でやるべきか、従業員5〜50名の中小企業向けに判断軸と進め方を解説します。全部を作るのではなく判断・運用・ノウハウを社内に残す考え方、内製と外注の線引き、必要な人材要件、最初の90日の手順まで、IT担当がいなくても動ける形で整理しました。

AI内製化の進め方|中小企業がどこまで自社でやるか見極める判断軸

「AIは外注に頼りきりだと費用もかかるし、社内に何も残らない。でも、うちにはITに詳しい人間もいない」。従業員5〜50名の会社から、こうしたご相談をよくいただきます。結論から申し上げます。中小企業のAI内製化は、AIを自前で『作る』ことではありません。 既製のツールを使いながら、どの業務でどう使うかの判断・日々の運用・たまったノウハウの3つを自社に残すこと。これが、人の少ない会社にとっての現実的な内製化です。この記事では、どこまでを自社でやりどこからを外に頼むか、その判断軸と、必要な人材、最初の90日の進め方までを、IT担当がいなくても動ける形で整理しました。なお、ここで言う内製化とは、仕事のやり方や判断を外部任せにせず、自社の中に主導権と知識を残すことを指します。

結論:中小企業のAI内製化は「全部作ること」ではない

内製化の意味を自社に置き換えて考える経営者

まず、言葉のズレを直しておきます。「AI内製化」と検索すると、自社でAIモデルを開発する、エンジニアを雇う、開発環境を整える、といった大企業向けの解説が多く出てきます。これらは、専任のIT部門や年単位の予算がある会社の話です。従業員5〜50名の会社が、同じことを真似する必要はありません。

人の少ない会社にとっての内製化は、もっと手前にあります。ChatGPTのような既製のAIツールは、もう十分に賢く、安く手に入ります。作る部分はツール任せでよいのです。では何を自社に残すのか。残すべきは、次の3つです。

  1. 判断。「どの業務にAIを使うか」「どこまで任せ、どこは人が決めるか」を自社で決める力。
  2. 運用。日々AIを使い、結果を確かめ、まずければ直すという日常の回し方。
  3. ノウハウ。「このやり方だとうまくいく」「この業務には向かない」という、使ってみて初めて分かる知識の蓄積。

この3つが社内にあれば、たとえツールを乗り換えても、業者が変わっても、自社の力は残ります。逆に、ここを全部外に預けると、毎月費用を払い続けても社内には何も育ちません。内製化とは、作ることではなく、主導権を自社に残すこと。 まずこの一点を押さえてください。

なぜ今、中小企業で「内製化」が注目されるのか

外注依存の課題を話し合う社員

内製化という言葉がよく聞かれるようになった背景には、中小企業に共通する2つの事情があります。

ひとつは、IT人材がそもそも足りないことです。経済産業省の委託調査では、国内のIT人材の不足は、需要の伸びが大きい場合、2030年に最大で約79万人に達する可能性があると試算されています(経済産業省 IT人材需給に関する調査 報告書)。採用市場でIT人材を取り合えば、人件費は上がり、小さな会社ほど採りにくくなります。自前でエンジニアを抱える内製化が難しいのは、気のせいではなく構造的な理由があるのです。

もうひとつは、DXそのものが人手不足で止まりがちなことです。IPA(情報処理推進機構。国のIT施策を担う独立行政法人)の「DX動向2025」によると、従業員100人以下の企業でDXに取り組んでいる割合は**47%にとどまり、企業全体より低い水準でした。そして、中小企業がDXで直面する課題として、「推進する人材が足りない」**が最多で挙がっています(IPA DX動向2025)。

この2つを並べると、答えは見えてきます。人を増やして全部内製するのは無理。かといって全部外注では社内に何も残らない。 だからこそ、「どこを自社に残し、どこを外に頼むか」を線引きする内製化の考え方が、人の少ない会社ほど効いてくるのです。既製のAIツールが安く賢くなった今、少人数でも主導権だけは自社に残せる環境が整いました。

どこまで内製する?社内に残すべき4つの線引き

社内に残す範囲を書き出して線引きする経営者

「どこまで自社でやるか」を感覚で決めると、ぶれます。判断・運用・ノウハウを自社に残すために、具体的に社内に残す4つのものを先に決めておきましょう。この4つさえ押さえれば、残りは外に頼んでも主導権は失いません。

  1. 業務の判断を残す。AIに何をやらせ、何はやらせないか。たとえば「見積の下書きはAI、最終の価格判断は人」といった線引きは、自社の事情を知る人間にしか決められません。ここは絶対に外注しない部分です。
  2. 良し悪しの基準を残す。AIが出した文章や答えが「使える/使えない」をどう判断するか。この合格ラインを自社で持っていないと、外注業者の「できました」を評価できません。
  3. 使った記録を残す。どの業務でどう使い、何がうまくいったかの記録です。これが次の判断材料になり、担当者が替わっても引き継げる財産になります。
  4. 直す権限を残す。使い方を変えたい、別の業務にも広げたいと思ったとき、業者の都合を待たずに自社で動かせる状態を保つことです。

この4つは、お金ではなく姿勢で残せるものです。言い換えれば、AIを「使いこなす側」に自社がいるか、「使われる側」に回るかの分かれ目です。どの業務から手をつけるか迷うときは、業務を細かく分けてAI向きの作業を見極める業務の棚卸しから始めると、残す範囲を決めやすくなります。

内製と外注の判断軸|この表で線を引く

内製と外注を項目ごとに比較して決める様子

残すものが決まったら、次は「作る・つなぐ・設計する」といった作業ごとに、内製か外注かを振り分けます。中小企業の場合、判断軸はシンプルです。自社の事業や判断に関わる中心ほど内製(自社に残す)、技術の専門性が高い周辺ほど外注、と考えてください。

作業の種類 基本の進め方
どの業務に使うかの判断・運用 内製(自社で持つ)
既製ツールを使った日常業務 内製(社員が使う)
初期の設計・システム連携・開発 外注(専門家に頼む)

ここで大切なのは、外注する場合でも、いきなり大きな開発を頼まないことです。多くの中小企業の課題は、ゼロからAIを作らなくても、既製ツールと業務の組み替えで解決できます。「作る前に、既製ツールで足りないか」を必ず先に確かめてください。この順番を飛ばして受託開発に走ると、費用も期間も跳ね上がります。費用感の具体はAI受託開発の費用で整理していますので、見積を取る前に一度ご覧ください。

外注の相手を選ぶときの見るべき点は2つです。自社の言葉で説明してくれるか(専門用語でごまかさないか)、小さく始める提案をしてくれるかです。最初から大規模な提案しか出さない業者は、人の少ない会社には向きません。選び方の詳細はAIベンダーの選び方も参考になります。

必要な人材要件|専門家を雇う前に、既存社員を底上げする

既存社員がAIの使い方を学び合う社内の様子

「内製化するなら、AIに詳しい人を採用しないと」。そう考える経営者は多いのですが、順番が逆です。中小企業の内製化に、まず必要なのは専門人材ではなく、既存社員の底上げです。理由は3つあります。

第一に、前述のとおりIT人材は採りにくく、採れても人件費が重い。第二に、外から来た人は自社の業務を知りません。AIを使いこなすうえで最も価値があるのは、技術知識ではなく**「その業務のどこが面倒か」を知っていること**です。これは、今いる社員の方が圧倒的に詳しい。第三に、1人の専門家に頼ると、その人が辞めた瞬間に内製化が崩れます。属人化は内製化の敵です。

では、どんな人が要るのか。肩書きではなく、役割で3つ挙げます。

  1. 旗を振る人(社長・役員)。「わが社はAIを使う」と決め、時間と予算、そして反発が出たときの後ろ盾を渡す役割です。技術の中身は分からなくて構いません。
  2. まとめる人(兼任で1名)。専任は不要です。業務の片手間で、使い方を広め、詰まりを拾う役割。求められるのは技術力ではなく、現場に声をかけて回れる人柄です。
  3. 現場で試す人(1〜2名)。実際にその業務を毎日こなす社員。新しいやり方を試し、良し悪しを正直に言える人が理想です。

この体制は、専任部署がなくても組めます。既存社員の底上げをどう進めるかはAI人材の育成で、兼任で任された人の動き方はAI推進担当者の90日やることリストで詳しく扱っています。専門家は、この3役が回り始めてから、足りない専門性を補う形で頼めば十分です。

進め方|最初の90日で回す4ステップ

90日の進め方を段階で整理するチーム

考え方が固まったら、あとは手を動かすだけです。最初の90日を、次の4ステップで回してください。大きく構える必要はありません。1つの業務から始めます。

ステップ1(1〜2週目)業務を1つに絞る。 「AI全般をやる」ではなく、「毎月の報告書作成を楽にする」のように、対象をひとつに決めます。選ぶ基準は、毎日・毎週くり返す定型作業で、間違えても大事故にならないもの。見積の下書き、議事録、問い合わせへの返信文などが向いています。

ステップ2(3〜6週目)既製ツールで試す。 いきなり開発や外注に行かず、ChatGPTなどの既製ツールで現場の1〜2名が実際に使ってみます。ここで「社内に残す4つ」の記録を取り始めます。どう使い、何がうまくいき、何がダメだったか。メモで十分です。

ステップ3(7〜10週目)合否の基準と線引きを決める。 試した結果をもとに、「この品質なら使ってよい」という合格ラインと、「ここは必ず人が確認する」という線引きを言葉にします。これが自社のノウハウの核になります。

ステップ4(11〜13週目)続ける・やめる・広げるを決める。 90日の終わりに、この業務での使い方を定番化するか、別の業務へ広げるか、合わなければやめるかを判断します。「やめる」をきちんと決められることも、主導権が自社にある証拠です。

このサイクルに、足りない専門性があれば外部を足します。ただし外に頼むのは「初期設計や連携」までで、「どう使い、どう直すか」の運用は自社に残す。この原則を崩さない限り、内製化は前に進みます。

まとめ:明日やること

中小企業のAI内製化は、AIを自前で作ることではありません。既製ツールを使いながら、判断・運用・ノウハウの3つを自社に残すこと。内製と外注の線引きは「事業の中心ほど自社、技術の周辺ほど外注」で振り分け、人材はまず既存社員の底上げから始めます。最初の90日は、業務を1つに絞って既製ツールで試し、合否の基準を自社で持つ。この順番を守れば、IT担当がいなくても主導権は自社に残せます。

明日やること:紙に、くり返しの定型業務を3つ書き出してみてください。そのうち「間違えても大事故にならないもの」を1つ選び、丸をつける。それが、あなたの会社がAI内製化の第一歩を踏み出す対象業務です。来週、その業務の担当者に「これ、AIで楽にできないか一緒に試してみよう」と声をかけるところから始まります。

次に読む

AI Navigatorでは、中小企業が「どこまでを自社に残し、どこを外に頼むか」を一緒に線引きするところからご支援しています。社内にIT担当がいなくても、既製ツールと今いる人員で小さく始め、ノウハウが社内に残る形に落とし込みます。内製化の進め方に迷ったら、サービス紹介と無料相談をご覧ください。最初の対象業務選びから、一緒に決めていきます。

参考ソース